大判例

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東京高等裁判所 平成3年(う)1105号 判決

被告人 市橋亮一

〔抄 録〕

車両は、道路標識等により最高速度が指定されている道路においてはその最高速度をこえる速度で進行してはならないものとされ(道路交通法二二条一項)、これに違反した者に対する罰則が定められている(同法一一八条一項二号、同条二項)ところ、右道路標識等による速度規制は同法四条一項により都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に委任され、同委員会において最高速度を指定することによりなされることとされている。すなわち、公安委員会は、同法四条一項により道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して道路における交通の規制をする権限を委任されているが、道路標識等による最高速度の指定は右交通規制の一環としてなされるものである。

このように道路標識等による最高速度の指定(以下単に「最高速度の指定」という。)が各都道府県の公安委員会に委任され、公安委員会の行う行政処分としてなされることとされたのは、各地域の道路における最高速度を一律に同一速度に規制するのは相当でなく、それぞれの地域における道路、交通の状況に応じて、各地域の公安委員会が法の委任の範囲内においてその裁量によりこれを定めるのが実情に即しているからにほかならない。

公安委員会の行う最高速度の指定が右のような性質を有する行政処分であることにかんがみると、仮に公安委員会のした最高速度の指定が相当でないとしても、それだけでその効力を否定することは許されず、右指定に公安委員会の裁量権を著しく逸脱するような重大な瑕疵がある場合でなければ、これが無効とされることはないというべきである。≪中略≫

交通反則通告制度(以下、「本制度」という。)は、道路交通法の違反行為のうち比較的軽微で争訟性の少ない、おおむね現認性、明白性を備え、かつ定型的なものを反則行為と定め、その違反者のうち無免許運転をした者等一定の者を除外してこれを反則者とし、反則者に対しては所要の手続に従い反則金納付を通告し、右通告を受けた者が一定の期間内に反則金を納付したときは、その違反行為の事件について公訴を提起されず、または家庭裁判所の審判に付されないこととするが、反則者が、通告を受けても反則金を納付しないときは、公訴の提起が許されるとする制度であるところ、右の手続において反則金納付の通告が裁判ではないこと、したがってまた、公訴提起後における審判が反則金納付の通告に対する上訴でないことはいずれも明らかであるから、本件において刑訴法四〇二条の適用を論ずる余地はない。また、右通告を受けた者が反則金を納付するかどうかは反則者の任意であり、その意に反して反則金を納付することを強制される訳ではなく、本来の刑事裁判を受ける権利が保障されていることも明らかである。所論のいうように、不服のある場合でも本制度によらず裁判を受ければ刑罰が科せられるという面があるとしても、不服の点につき救済を求めるのは刑事裁判によるほかなく、そのことのために、立法政策上反則金を納付すれば刑罰から開放されることとした本制度を利用しなかったことの反射的側面として右のような結果の生ずることはやむを得ないところである。更に、本制度においては、前記のように、反則行為を比較的軽微で争訟性の少ない、おおむね現認性、明白性を備え、かつ定型的な違反に限定するとともに、手続的にも通告に前置して告知の制度を設け、反則者に原則として出頭の期日及び場所を告知して事情聴取の機会をつくるなどしてできるだけ不服のある場合を少なくしようとの配慮をしており、また、反則金の額は法令で定められた一定額とされているが、裁判に移行した場合においても罰金額の量刑に当たっては、反則金の額を事実上考慮せざるを得ないと思われるのであって(本件においても、反則金額と罰金額は同一である。)、これらの点からすれば、反則者がその意に反して事実上反則金の納付を強制されるなどといえないことは明らかであって、本制度が裁判を受ける権利を奪うものとは到底解されない。

(小林 宮嶋 中野)

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